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『鉄腕バーディー』ゆうきまさみ

鉄腕バーディー 8 (ヤングサンデーコミックス)

鉄腕バーディー 8 (ヤングサンデーコミックス)


 約20年前、作者初の一般誌向け作品として別冊少年サンデーに連載され、未完のままだった『鉄腕バーディー』のリメイクの単行本第8巻刊行。 ただ、リメイクと言ってもドラえもんなど昭和から連綿と続く「居候モノ」のSFアクション版という仕掛け自体が斬新だった時代が終わったいま、ゆうきまさみも全く別の作品としてこれに取り組んでいるようだ。

 ゆうきまさみがこの作品をリメイクしたのは、アメリカ合衆国の主唱する世界平和に対する違和感が動機のひとつになっているだろうし、現に4,5巻では合衆国を登場させて痛烈に揶揄して見せている。 強者の論理であるダブルスタンダードは、さらに強い者が現れた瞬間に単に「滑稽なもの」でしかなくなり、崩壊するということだ。

 しかし、ゆうきまさみの作家としての誠実さを見ることができるのは、そのことよりもむしろそれ以降、この傲慢な強者の役割をバーディーの所属する連邦警察が担い始めたところである。 特殊部隊上がりの残忍なカペラが、連邦において極端な例ではあるものの決して異端ではないということが顕わになるや、バーディーの捜査姿勢こそがお人好しの夢想する平和主義、ともすると「陳腐なもの」として片づけられてしまう。 解決策を提示できない彼女は、もちろん合衆国と不戦平和主義との間で板ばさみになる日本を象徴している(ついでにいえばその後ろで身勝手な事なかれ主義を叫ぶつとむが我々日本の大衆ということになる)。

 カペラが千明から反撃を受けたことによって、テロ被害を被った合衆国と同様に専横が正当化されるとすれば、彼女はますます厳しい状況に立たされるだろう。 さらに、局面こそ違えども既に氷川は国民へ恐怖の刷り込みを行い、恐怖にもとづく民意支配までも仄めかしている。 合衆国をなぞるようなこの展開が今後の焦点になるのは間違いない。 その時バーディーがどういう選択をするのか、つとむに何ができるのか(あるいはいかに何もできないのか)が語られるはずだ。

 あくまでエンタテインメントとしてのSFマンガの枠組みを守りながら、どのようにこの問題を昇華していくことができるのか、全く予断を許さないが、このような題材に真っ向から挑んだゆうきまさみの誠意には心から敬服する。