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『地上最大のロボット』手塚治虫

鉄腕アトム(13) (手塚治虫漫画全集 (233))

鉄腕アトム(13) (手塚治虫漫画全集 (233))


 『PLUTO』が世に出て、原案となった『地上最大のロボット』も単行本附録になるなど再び耳目を集めている。 ただ、その読まれ方は、「この話と真正面から取り組んで浦沢はここまでの肉付けに成功した」というもので、浦沢抜きに読むことが難しくなっていることは否めない。 浦沢が物語るのはあくまでも浦沢自身の物語であって、そこには浦沢の土俵があるだけなのだ。 だからいま、純粋にこの手塚の作品を読み直して感じることを書いておきたい。

 鉄腕アトムの多くのエピソードの中でも『地上最大のロボット』は、読者から当然のように「心」を持つと信じられてきたアトムでなく、善悪を知らない高性能ロボットがいかにそれを身につけ「人」として成長し、「人」として死にうるかを描いている。 
 つまり、ロボット三原則のように単純な規則からも「心」は生まれうる、「心」とはそのようなものであると。 

 まず、高性能ロボットがロボット三原則を運用する時に、併せて人間社会の善悪判断を学習していくというシステム設計は効率側面から至極当然であること。 そして、人間社会の善悪判断を学習をするためには周囲からの毀誉褒貶に敏感に反応する判断装置が必要であること。 この作品ではプルートウもアトムも繰り返し毀誉褒貶に晒され、それぞれに大きなショックを受けている。 ウランからワッペンをもらうプルートウ、人間から「化けもの」と陰口を囁かれるアトム、ひとつひとつの場面が読む人間の「心」を鋭く突き刺し、その瞬間自分の内部で起こったと同じ現象がロボットの回路にも発生していることが痛いほど解る。 

 この主題は息が長く、石森章太郎人造人間キカイダー』によって再び奏でられ、少女マンガの清水玲子『メタルと花嫁』、近年では神山健司『攻殻機動隊stand alone complex』等でも変奏された。 恐らくは工業化、電子化が進展するたびにディテイルを加えて書き換えられるのだが、ここまでシンプルに、単純規則から心の獲得までを追った物語はなかろう。 複雑系の研究が始まってすらいない時代に、ご都合主義でなく、丹念にこれを描きえたことは、思想として驚異的だ。